卒業生に贈る言葉
前医学研究科長・医学部長
本間 研一(47期)
 

 北大医学部85期生の皆さん、卒業おめでとうございます。北大医学部を代表して心からお祝い申しあげますとともに、皆さんの今後の活躍を大いに楽しみにしております。卒業後、皆さんの多くは医療の第一線に出ることになりますが、熟練した医師となるには卒後の研修が極めて重要です。また、日進月歩の医学医療にあっては、医師は生涯学習を欠かすことができません。さらに、医学医療が人間社会にとって最も重要な学問であり、営みの1つであることから、皆さんは、常に社会に目を向ける姿勢と見識が必要です。

 現在、日本の医療は大きな曲がり角にあります。医学医療の高度化、増大する国民の医療に対する期待、医療に関連した副次的業務の増加などにより、病院に勤務する医師の労働時間が大幅に増え、医療現場の疲弊が極限に達しています。その結果、地域基幹病院から中堅医師が脱落し、若手医師は高リスク診療科を忌避するようになり、体系的な医養成システムが崩壊しました。医療現場における混乱の主たる原因は医師数が絶対的に少ないこと、その背景には政府が長年とってきた低医療費政策があると考えられます。昨年、政府はやっと重い腰をあげ、それまでの政策を180度転回して医学部入学者の定員増を決定しました。

 世界保健機構の調査によると、日本の医療は世界でもトップクラスで、特にその質の高さが評価されていました。一方、日本における人口当たりの医師数は、24の先進諸国からなる経済協力開発機構(OECD)のなかでは第22位で、世界水準(OECDの平均値)の7割にも達していません。また、国民総生産(GDP)に占める医療費の割合も平均値以下です。日本の政府や国民は、これまで健康よりも経済的発展や物質的豊かさを追求してきました。今、この考えを根本的に見直さなければなりません。国民の基本的な権利である健康の維持は人生の目標でもあり、社会基盤として必要不可欠なものです。

 医師や看護師は「選ばれたものが担う職業」とされていました。また、その職業には「崇高な精神的義務(ノブリス・オブリージェ)が伴うとされていました。しかし、医療の市場化が進むなかで、「崇高な精神的義務」とは何でしょうか。卒業する皆さんには、医師として、また研究者として医療医学にたずさわるなかで、「崇高な精神的義務」とは何かを考えていただきたいと思います。

 最後になりましたが、皆さんの益々のご健勝とご発展を祈念し、私の贈る言葉と致します。

 
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